会議の当日——。
前回はコチラ

☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.

「当社の新商品『エチカQED』の受注状況ですが、タナカデンキが5千、ビックリカメラが3千…」
 
田端は用意した資料の説明を始めた。机の向かい側、日差しの差し込む窓を背に、部長の上野が大きな身体をかがめてパラパラと資料をめくっている。

「現在のところ、目標の2万台に対して1万5千台というところまできており…」

田端が1枚目の資料の真ん中あたりを読み上げていた頃、

「ちょっと待って」と上野がそれを遮った。

「これさ、ビックリカメラ3千台ってことはないでしょ」

上野は3ページ目の、小売店別の数字を見ていた。

田端:いえ、ビックリカメラは3千台です……。

上野:今の『エチカ』が6千台なのに、なんで半分になってるの。

田端:ビックリの商品部とは先週もかけあったのですが、なんでも家電売り場全体が縮小されているみたいで、家電担当のそのバイヤーも困っているようでした。

上野:売り場は見たのか

田端:ま、まあ、少し……。

上野:縮小されてたのか

田端:前の状態がわからないので、なんとも……。

(これは、マズい……)

 みるみるうちに、上野が不機嫌になっていくのがわかった。

上野:何で前の状態がわからないんだ。お前、マーケ部にいたんだろう。マーケ部はうちの一番のお客さまであるビックリカメラのことはどうでもいいのか。

田端:あ、いえ……。

上野:それで、うちの掃除機はどこに置かれてた。商品部に行ったってことは、有楽町だろう。有楽町のどこに置かれてた。

田端:3階です。

上野:そんなことはわかってんだよ。3階のどこだよ。

田端:……。

上野:覚えてねえのか。見てねえのか。

田端:ちらっとは見たんですけど、正確には……。

上野:ふざけんな!それは見たうちに入んねえんだよ!

 上野は会議室に怒号を響かせて、田端に向かって、資料を投げつけた。
 幸い、4枚綴の薄い資料だったので、空気の抵抗で田端までは届かず、空を舞った。

田端:……。

 田端はすっかり青ざめた。

上野:お前、いまなんで怒られてるかわかるか。

田端:はい……。げ、現場を見てこなかったからです。

上野:ちげーよ。見てねーのに、見たようなフリして誤魔化そうとしたからだよ。

田端:いえ……。はい……すみません……。

上野:俺はこれ以上嘘つきの話なんか聞きたくねえ。出てけよ。

田端:すみません、そんなつもりじゃ……。

上野:うるせー!出てけ!

 会議室に再び轟音が響き渡る。

 気がついたら田端は会議室の外にいた。

 上野の怒鳴り声は会議室の外からこぼれているどころではなかったはずで、部員は誰も田端と目を合わせようとしない。田端は恥ずかしくなって、なるべく平静を装いながら会社の外へ出た。

 気が動転していたのでケータイは持ってきたが、財布はおいてきてしまった。取りに戻ることもできないので、行くあてもなく公園のベンチに腰を下ろした。

(俺、この先どうなるんだろう)

 雲ひとつない5月の空を眺めていると、ケータイに着信があった。

「課長…」

 課長の駒込からだった。

駒込:田端くん、大丈夫。

田端:大丈夫じゃないです。……けど、僕が悪いんです。すみません。

駒込:部長はああいう風に誤魔化したりすることには厳しいからね。今、どこにいるの?今日は仕事終わりにして、飲みに行こうか。

田端:え?課長、いままだ三時ですよ。

駒込:たまには、三時から行くのもいいじゃない。行くよ。

田端:は、はい……。財布忘れたので、いったんデスクに戻ります。

駒込:わかった笑

田端:課長……。

駒込:何。

田端:今から十分後くらいには戻れると思うんですけど……その……やっぱり何でもないです。

駒込:何だよハッキリ言いなさい。ちなみに、部長はさっき十階の会議に行ったから、今日は部長に用があっても無理だからな。

田端:……! 有難うございます!

 営業部に異動してからの田端くんのキャリアは、前途洋々というわけには行かなそうである。

(このエピソードはフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。)