車内での上野と駒込の話題は、自然と田端のことに移っていく。
 
上野:ところで、お前に預けた大崎のとこにいたあのガキはどうだ。
 
駒込:いやあ、使い物になりませんね。

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上野:やっぱり、そうなのか。

駒込:それが大崎さんのところのやり方なのかもしれませんけれど、テクニックだけは身についていて、文字通り肝心の部分と言いますか、心構えの部分がからっきしです。

上野:ふん、そんなこったろうと思ったよ。おおかた、現場も殆ど見たことがねえんだろう。そんなやつばっかりだ。数字ばっかり見て、わかったようなことを言いやがる。

駒込:まさに、そんな感じです。あの子は、今回、神田さんから預かったんですか?

上野:違う。人事部だな。あいつらは、これから新卒の採用を強化したいらしい。そのためのロールモデル?まあ見本をつくるそうだ。

駒込:見本ですか。うちに新卒採用はちょっと早いんじゃないですかね。

上野:まあ、それは人事部が考えることだ。誰であっても神田さんから預かった社員だ。一人前にしてやってくれ。

駒込:わかりました。

上野:タイミングをみて、幹部会に連れて来ていいぞ。

駒込:幹部会……ですか。

上野:そうだ。普通の方法でやってても埒が明かねえよ。

駒込:なるほど。お手柔らかにお願いしますね。

上野:それはお前次第だな。

この後、田端sideで見たように、幹部会議で田畑は上野の叱責を受けることになる。

「ちょっとやりすぎたか。でもしょうがねえよなあ。あいつが誤魔化すから頭にきちゃったよ」

そう言う横で、駒込はフォローの電話をかけることになったのだった。

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このように、相手側の視点から見ると、状況は全く異なって見える。今回のエピソードでは、入社四年目の田端と営業部長の上野では、目的も責任も持っている情報もできることの範囲も、何もかもが異なる。これは他人事じゃない。
 
 私たちが上司や取引先との向き合いに困り果てた時、一人称相手視点の物語を可能な限り想像してみることで、解決のいとぐちが見えてくることもある。

今回の場合、田端は今後どのように振る舞えば良いだろうか?
視点を再び田端へと戻そう。

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田端:僕はこの後、どうなるんでしょう。相当怒ってましたよね、部長。

駒込:そうだな。これから挽回すれば大丈夫だ。部長も普段はいい人なんだけど、ああいうことには厳しいんだ。でも、田端くんのためだぞ。やっぱり山手商事の社員は、とことん誠実じゃないといかん。

田端:はい……。反省しています。

駒込:まあ、問いつめられたら咄嗟にその場しのぎの答えをしてしまう気持ちもわからないでもない。これからは気をつけるんだな。普段の田端くんが誠実なことは俺からも部長に言っておくよ。

田端:すみません……。

 三時半から飲み始めた二人は、七時頃にはすっかり酔っ払っていた。

駒込:なんだ、ずいぶん店も騒がしくなってきたな。
 
田端:そろそろご飯時だからですね。

駒込:そうだ、僕は今日はこれで帰るけど、君はここへ寄った方がいい。

 駒込は田端へ一枚の名刺らしきものを手渡した。

田端:BAR……サクラス?

 どこかのお店のものだった。

田端:へ?なんですか、このお店は。

駒込:行けばわかるよ。店には連絡してあるからさ。。

田端:えー? 課長!

(田端:行ってしまった……)
 
 田端は怪しみながらも、酔っ払って気が大きくなっていたのと、今夜はもっと酔っ払っていたかったので、名刺の店へ行くことにした。
 
 その店は様々な飲み屋の入った、入り組んだ構造の雑居ビルの一角にあった。

(田端:あれ、誰もいない……?)