あさひ:私はね、会社に勤めてたことはないわ。でも、女優になりたくて、よく芝居に出たりはしてたから、なんとなく、そういうことはわかるの。

田端:女優!どうりで美人なはずですよ。

あさひ:ふふふ。結局、その夢はあきらめたんだけどね。でもね、ある時、気づいたことがあったわ。
 
※続きものです

☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.

田端:何ですか。
 
あさひ:当時の私にはなかなかうまくいかない時があって、そんな時は、よく演出さんとも、共演するキャストとも衝突していた。

田端:あさひさんにもそんな時代があったんですね。

あさひ:うん。演出家には何をやっても否定されて、共演者も全然助けてくれない。私なんかいない方が舞台がずっとよくなるんじゃないかって、自己嫌悪にもなったわ。

田端:どうしたんですか。

あさひ:かといって、言われるがままじゃ、面白くないじゃない。そんなんだったら、他の役者がやればいい、当時はそう思ってたから。

田端:言うことは聞きたくないけど、モメててもいいものが出来ない。

あさひ:そう。でもそんな時ある人に言われたの。『演出家さんが、なんであさひちゃんの演技にダメ出しするのか、わかる?』って。最初は、『ダメ出しの方針がその時々で違うからわからない。そもそも、その統一感がないことも腹が立つ原因』って答えたんだけど、なんでこの人はこういう指示を出すんだろう?とか、この人の前の公演はどうだったんだろう?とか、みんなは自分の演技をするために何を気をつけてるんだろう?とか、周りを見るようになった。そうしたら、わかったのよ。その演出家が、みんながつくりたい舞台がどんなものかが。

田端:絶不調の時に、周りを見て気づくことがあったんですね。

あさひ:それがわかったら、あとは自分の演技を捨てる必要がなかったの。いつの間にか、演出家を敵だと思って、しかも、相手をろくに見ず戦っていたような感じだったわ。結果が出なくて自分に余裕がないから、周りが見えないんじゃないのよ。周りが見えてないから、結果が出なくて自分に余裕がなくなるの。周りを見るのは、実は自分のためなのよ。

田端:自分のために、周りを見る……。

あさひ:例えば、部長さんや課長さんが普段どんな人と話して、どんなことを考えているか、とか、想像してみたことある?

田端:無いですね……。

あさひ:余裕が無いから?

田端:いや……、というより、考えてもなかった……だけかも。

あさひ:田端さんは今日、私のことを色々聞いてくれたじゃない。

田端:は、はい。いきなり年齢とか失礼なこと聞いちゃってすみませんでした。

あさひ:ふふふ。でもそれって、なんでなの。

田端:そりゃもう、あさひさんに興味があったからです。

あさひ:そしたら、周りの方々にもっと興味を持てたらいいのかもしれないわね。

田端:興味……。

あさひ:まずはそこから。相手のことがわかったら、次に、部長さんと課長さんが『田端くんについて話してる場面』とかを、想像してみるといいかもよ。劇作家になったつもりでね。

田端:なるほど……。登場人物のキャラクターが決まっていなかったら、いいシナリオは書けませんもんね。やってみます!

 ガチャ(ドアの開く音)

あさひ:いらっしゃい。

男の声:あれ、もう誰か来てるのか。

あさひ:あら、品川さん。

品川:おい、田端じゃないか。

田端:え?品川さん?


つづく